2012年7月11日
潟Iリジン生化学研究所
「アップルクイン」由来成分のSEC-MALLS測定報告書
分析機関: 大阪府立大学 生命科学研究科分子情報化学講座
1. 材料と方法
1-1. 試料
アップルペクチン含有の「アップルクイン」((有)アップルペクチン研究所,
5g (焦げ茶色, 液体),
30包)を分析に用いた。
1-2. 試料溶液中の乾燥物重量測定
サンプル5包を開封し、内容液全量の体積をメスシリンダーを用いて測った。この溶液を凍結乾燥して乾燥物重量を測定し、サンプル溶液中の乾燥物重量を算出した。
1-3. Diaion HP20処理
サンプル1包から取り出した液体
(4.4mL)に水5mLを加え、遠心 (6,000rpm,
20℃, 5分)して上清を得た。得られた上清に前処理済みのDiaion HP20樹脂 (Supelco)を約5体積分加え、室温で1h静置した。G3ガラスフィルタでろ過し、ろ液を得た。樹脂を20mLの水で洗い、洗い液も回収した。ろ液 (少し濁り)を0.45mmメンブレンフィルタでろ過した後 (茶色、透明の液体)、濃縮し、凍結乾燥した (Fr.A)。
1-4. エタノール沈殿による高分子の分画
1-3で調製したFr.A (サンプルのDiaion
HP20による処理物)
301.08mgを水1mLに溶解した
(30.1%)。エタノール1.5mL加え(60%エタノール)、遠心 (3,000rpm,
室温, 5分)して沈殿を回収した。沈殿を70%エタノールで3回、エタノールで3回洗い、70℃で減圧乾燥した (Fr.A-1)。
1-5. 1H NMR
Fr.A 30mgとFr.A-1 10mgを1回D2O置換した後、600mLのD2Oに溶解し、400MHzのNMR装置JNM AL-400 (JEOL)を用いて80℃で1H NMR測定を行った。
1-6. SEC-MALLS
Fr.A (8mg)は400mL、Fr.A-1 (0.6mg)は150mLの0.2M KNO3にそれぞれ懸濁し (2% (w/v)と0.4 % (w/v))、ポアサイズ0.45mmのメンブレンフィルタでろ過して測定した。
<測定条件>
サンプル
: 「アップルクイン」由来成分
サンプル濃度
: Fr.A: 2 %
(w/v), Fr.A-1: 0.4 %
(w/v),
導入量
: 100 mL
カラム
: OHpak SB-802.5 HQとOHpak SB-802 HQ (8.0 i.d.×300 mm,
昭和電工)の2本を直列に接続 , 40 ºC
溶媒
: 0.2 M KNO3
流速
: 0.9mL/min
圧力
: 68kgf/cm2
装置
: MALLS: Dawn Heleos-II (Wyatt Technology, USA) (l = 658 nm), 室温
RI: Optilab rEX (Wyatt Technology), 25ºC
dn/dc
: 0.145
解析ソフト :
Astra (v. 5.3.4.14, Wyatt Technology)
2. 結果と考察
2-1. 試料調製
サンプル(焦げ茶色の液体)1包の内容物は4.4mL (4.5g)であり、乾燥物重量は、1.03g (23.4w/v%)であった。サンプル溶液1mL当たりの乾燥物重量と、Fr.A (DiaionHP20樹脂による処理物)、および、Fr.A-1 (HP20処理物から得られた高分子画分)の重量をFig.1に示した。
Fig.1 「アップルクイン」由来成分の分画と乾燥物重量 (試料1mL当たりに換算)
2-2. NMR
Fr.AとFr.A-1の1H NMRスペクトルをFig.2に示した。糖類に特徴的なスペクトルを示した。Fr.Aでは、全体的にシャープなシグナルが得られていることから、単糖あるいはオリゴ糖が多く含まれていると考えられる。Fr.A-1では、アノメリック領域 (4.3 -
5.3ppm)において、Fr.Aで観測されたシャープなピーク (4.5,
5.1ppm)がなく、ブロードなピーク (4.4, 4.7 -
5.1ppm)のみが観測された。このことから、Fr.Aには少なくとも2成分以上が含まれており、主成分はシャープなピーク (4.5,
5.1ppm)を示す単糖またはオリゴ糖で、Fr.A-1のスペクトルを示す比較的高分子量の成分を含むことが示唆される。
Fig.2 Fr.AとFr.A-1の1H NMRスペクトル (D2O, 80℃)
2-3. SEC-MALLS
Fr.AとFr.A-1のHPLCクロマトグラムをFig.3に示した。Fr.Aでは、高分子領域 (peak1)、オリゴ糖領域 (peak2)、単糖領域 (peak3)に計3ピークが検出された。それぞれのピーク面積から、Fr.Aの主成分は、peak3に溶出されている単糖 (未同定) (70.4%)と考えられる (Table 1)。さらに、比較的高分子 (peak1)が17.7%と、オリゴ糖 (peak2)が12.0%が含まれていると推定される。Fr.A-1では、高分子 (peak1)のみピークが検出されたことから、60%エタノール沈殿によって、Fr.Aから、高分子のみを分画できたことが分かる。この結果は、1H NMRスペクトルの結果と一致する。
Fig.3 Fr.AとFr.A-1のHPLCクロマトグラム (検出器: RI)
Table 1 Fr.Aのクロマトグラムから得られたピーク面積比
Peak No. |
Rt (min) |
Area (%)* |
1 |
11.7 |
17.7 |
2 |
16.0 |
12.0 |
3 |
19.6 |
70.4 |
計 |
|
100.1 |
* 検出器がRIなので、ピーク面積比は、各成分の濃度比に比例する。
Fr.Aは、分子量の異なる3成分の混合物であった。ここでは、Fr.Aに含まれている高分子について、SEC-MALLS測定により、分子量測定を行った (Fig.4)。Fr.Aのpeak1とFr.A-1の重量平均分子量 (Mw)と分子量分布 (Mw/Mn)をTable
2に示した。Fr.Aに含まれている高分子のMwは、約50,000と算出された。ただし、ピークの高分子側に会合した分子によると考えられる、光散乱の大きなピークがあるため、実際の分子量より大きく算出されている可能性があり、正確な分子量を求めるためには、この成分の精製が必要である。
Fig.4 Fr.Aのpeak1とFr.A-1のSEC-MALLSクロマトグラム
Table 2 Fr.Aのpeak1とFr.A-1の重量平均分子量 (Mw)と分子量分布 (Mw/Mn)
|
Mw |
Mw/Mn |
Fr.A |
49,000 |
1.11 |
Fr.A-1 |
53,000 |
1.13 |
*高分子側の光散乱による会合ピークが特に大きかったため、実際の分子量より大きく計算されていると考えられる。
3. まとめ
サンプルの液体には、主に分子量の異なる3成分が含まれており、サンプルのHP20樹脂処理物 (Fr.A)中には、濃度比で高分子17.7%、オリゴ糖12.0%、単糖70.4%が含まれていた。そのうち、高分子の分子量は、SEC-MALLS測定により約50,000と算出された。 |